知っておきたいRFIDの基礎知識

RFIDは、Radio Frequency IDentifierの頭文字を取ったもので、情報を保持したタグ(ICチップ)から、電磁界や電波による近距離の無線通信を用いて情報をやりとりする技術の総称です。近年では、アパレル・物流業界を主に普及が進んでおり、日常生活で目にすることも多くなってきました。将来、自動認識分野を支えるコアテクノロジーの一つになっていくででしょう。
この記事では、「検体管理に用いられるRFID技術」に焦点を当て、その特性と利点についてご紹介します。

注:RFIDタグおよびアンテナを含む構成部品はRFIDインレイとも呼ばれますが、この記事では、表記をRFIDタグと統一しています。

RFIDの原理

RFIDタグには、タグに電池(電源)を持たせたアクティブタグ(およびセミアクティブタグ)と、電源を持たないパッシブタグがあります。パッシブタグは、単独では機能を果たせませんが、保持データの永続性とコスト面で優位性があります。ここでは、パッシブタグを中心にご紹介を進めていきます。

RFIDの動作原理

RFIDタグとのデータ通信には、RFIDリーダーが必要です。RFIDリーダー内から内蔵アンテナを介し、電磁波・電波を用いてRFIDタグのアンテナから電源を供給、双方向(単方向)のデータ通信を行います。

RFIDの種類

RFIDには、周波数帯における分類があります。SUICAやICカード、スマートフォンを用いた非接触決済や認証は、NFC(HF帯)が広く採用されています。検体管理分野では、UHF帯あるいはHF帯での運用が進んでおり、弊社ではUHF帯を中心に採用しています。

分類 通信方式 周波数帯 説明
LF帯 電磁誘導 135KHz以下 自動車のキーレスエントリーなど、1対1での通信・認証によく利用されている。薄型・小型化は難しい。
HF帯 電磁誘導 13.56MHz 薄型・小型化が可能。30cm程度までの短距離通信にて、1対1通信・認証に適している。おサイフケータイやICカードに利用されるNFCもこの分類となる。
UHF帯 電波 860~960MHz 薄型・小型化が可能。複数対象の一括通信ができ、数mのロングレンジ利用が可能。在庫管理や物流管理などに広く採用されている。

RFIDタグのメモリ領域

RFIDタグはICチップで、極小の電子回路です。RFIDタグには下記のようなメモリ領域があり、対象物を一意に識別するとともに、運用面で活用することができます。

名称  書き込み 読み取り 説明
EPC OK OK GS1(流通の国際規格の策定機関)が定める識別コード
TID NG OK

RFIDタグ製造時に書き込まれる固有の唯一無二(ユニーク)な識別コード

USER OK OK ユーザーが自由に書き込みできるデータ領域(RFIDタグの種類によって可否・領域サイズが異なる)
RESERVED OK OK RFIDタグを読み取り専用にする、無効化するAccess/Killパスワード領域

RFIDの利点と特長

非接触通信ができる

RFIDは電磁誘導・電波を用いてタグとのデータ通信を行うため、バーコードのように対象物が見通せなくても問題ありません。フリーズボックスや樹脂容器内で隠蔽された状態でも、対象物を識別できます。

Note:
電磁波・電波を遮蔽する金属容器では、著しい通信障害が発生します。エクステンダーアンテナなどの対応策を取るか、金属表面に対応するRFIDタグの採用が必要です。

複数の対象識別ができる

UHF帯のRFIDタグは、一度に大量の対象識別が可能です。例えば、10×10フリーズボックスに入った100本の対象サンプルを一度に識別することが可能なため、入出庫における照会ワークフローを迅速に行えます。

Note:
一度に多くの対象識別ができる反面、電波範囲内にある対象物以外のRFIDタグを予期せず識別してしまうという問題があります。電波遮蔽や、リーダーの出力、対象検体の取り扱いなどに留意する必要があります。

多くのデータを保持・書き込みできる

識別ラベルを用いた運用では、ラベルに表記できる情報がすべてです。DataMatrixやQRコードといった二次元バーコードは、比較的多くの文字数を保持できますが、RFIDの比ではありません。RFIDタグには、USERメモリ領域という自由に書き込みできる機能があり、有効期限や真贋証明など、運用で必要な情報を持たせることが可能です。

Note:
RFIDのユーザーメモリ領域を使い、独自のデータを保持することが可能ですが、セキュリティ面や運用面からは、必要最低限の情報を保持させ、変動するデータ項目はデータベースで管理・運用するのがベターと言えます。

RFIDタグの利用

RFIDタグは出荷時状態では、TID領域を用いた個体識別のみが有効です。
RFIDタグを用いた管理では、RFIDタグのTID領域の固有コードあるいは、ユーザーが管理したいサンプルIDをEPC領域やUSER領域に書き込み、サンプルの同定・紐付けを行う準備が必要です。

RFID対応プリンターを利用する

RFIDタグ包埋ラベルを用いる場合、もっとも良い選択はRFID対応プリンターを用いることです。RFID対応プリンターは、ラベル印刷とRFIDタグへのデータ書き込みを同時に行うことができます。処理時には、正しくデータ書き込みがされたことを検証(Verify)することで、データ欠損リスクを排除できます。

RFIDリーダー・ライターを利用する

発行済みのRFIDタグに対して、可変データ(取出回数や利用者情報など)をRFIDタグに書き込み耐場合は、RFIDリーダー・ライターを用いて行います。対象が複数の場合は、一括で処理することもできますが、個別の情報を更新したい場合は、1対1で処理する必要があります。

RFIDタグ利用時の留意点

水・金属に弱い

UHF帯のRFIDタグは、一括識別を得意としていますが、水や金属、そして一部のゴムなどの電波遮断や反射してしまう素材と相性が悪いという問題があります。しかし、近年ではこういった特性をカバーする特殊なRFIDタグも登場し、弱点はカバーされつつあります。凍結したサンプルの場合、この弱点は当てはまりません。

対象物に適切なRFIDタグを選定する

RFIDタグ包埋ラベルを利用する場合、多くはバイアルやチューブの円筒部に巻き付けて貼ることになります。フリーズボックスなど多くのサンプルが集積した状態では、不適切なRFIDタグでは、タグとタグが向かい合わせになったりすると、通信障害になる可能性もあります。

保管・識別する温度帯

市場に流通するRFIDタグは、物流分野に主眼を置いているため、スペック上の保管・識別の温度範囲は低くとも-20℃程度となっています。多くの生体サンプルは-80℃~-196℃といった超低温帯で保管されます。
こういった環境では、RFIDタグの通信周波数帯のシフト現象や、タグそのものが応答不良になるといった課題があるため、あらかじめ想定される利用温度帯を想定しておくべきです。

データの冗長性を確保する

堅牢で永続的なデータ保持が可能なRFIDタグですが、電子部品(集積回路)である以上、故障のリスクは否定できません。万が一の事態を想定し、RFIDタグ包埋ラベルには、そのサンプルを特定できるIDを印字しておきバックアップしておきましょう。

まとめ

かつては高価で、課題・問題点も多くあったRFID技術も、市場の普及に伴い多くの課題が解決されてきています。弊社ではいち早くRFIDを用いた超低温環境での検体保管・管理というテーマに取り組み、検証と課題の解決を成し遂げました。RFIDが次世代の検体管理における、ニュースタンダードとなることは疑いがありません。ご興味がおありの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

 

Rfid検体管理