バイオリポジトリは、科学研究を支援するために生物サンプルを収集、処理、保管、および配布する施設です。収集する生物標本の種類、それらの特定の機能、提供する予定の対象者によって分類された、さまざまな異なる生物リポジトリがあります。
最も明白なサブカテゴリは、ヒトの生物学的材料の収集を専門とするバイオバンクです。その重要性は近年高まり続けており、現在、疾患の研究と個別化医療の開発を目的とした研究を進める上で不可欠なツールとなっています。ここでは、バイオバンキングとバイオプリザベーションの歴史、今日の目的、および将来的な関連性について検討します。
バイオリポジトリの歴史
バイオバンキングは何年にもわたって進化してきましたが、人間の標本自体は100年以上にわたり収集・保管され続けてきました1。初期の標本バンクは比較的小規模で、特定の研究のニーズに基づいて運用されていました。そのため、記録の保管は通常、研究者の実験ノートに限定され、サンプルは1台のフリーザーに保管されていました。これらの初期のリポジトリは規模が拡大し続けましたが、大部分は大学および学術ベースのままでした。やがて最終的に政府の支援を得て、特定の研究プロジェクトのニーズに応えることから、より一般的な研究目的まで、その機能の範囲を拡大していきました。
やがて、さまざまな種類のバイオリポジトリも登場し始めました。新しいバイオレポジトリの1つは、1982年にサンフランシスコで設立されたエイズ標本バンクのような疾患中心のバイオバンクでした1。さまざまな分野の研究者が、エイズウイルスの原因物質の発見に役立つ小さなバイオバンクを手掛けました。
この傾向は、疾患中心のバイオバンク、人口ベースのバイオバンク、動物組織や植物の種子などのバイオリポジトリが今後数年間にわたって確立されることで継続されます。過去20年間で、特に人口ベースのバイオバンクの数が世界中で大幅に増加しました。
バイオリポジトリとバイオバンクの急激な増加は、生物標本とそのデータを収集および保存するための標準化されたプロトコル(手順)の欠如を鮮明にしました。データの注釈が不十分な低品質の標本が発生し、癌などの研究トピックの進歩が実際に遅延しました。このことから、サンプルの収集、処理、および注釈付けのための標準操作手順(SOP)を作成する必要性が高まりました。
この目的のために、2000年、国際生物環境リポジトリ協会(ISBER)が結成されました。調査員、バイオバンクマネージャー、患者擁護者などの多様なチームによって作成されたISBERは、特定のベストプラクティスを確立するために、毎年会合を開き、その分野での知識と経験を共有することを開始しました。
2005年に最初に発行された、リポジトリのベストプラクティスに関するガイドは、バイオリポジトリとバイオバンクにとって最も重要な出版物およびリソースの1つであり続けています。それは、機器、安全性、品質管理、コスト回収、標本の収集、保管と検索、倫理的懸念など、さまざまな問題をカバーしています。
バイオバンクの種類と機能
現在、さまざまな種類のバイオリポジトリがあります。最も一般的なものは、疾患中心型、人口ベース、プロジェクト主導型、および仮想バイオバンクが含まれます。疾患中心のバイオリポジトリは、がんなどの特定の疾患に関する標本とデータの収集に集中しています。これは、研究参加者、患者サンプル、およびリソースが不足しているため、希少疾患を研究する場合に特に役立ちます。
人口ベースのバイオバンクの主な目的は、健常ドナーと疾病ドナーの両方で構成されるソース集団から表現型およびゲノム情報を収集することです。これらのバイオリポジトリは、病気の新しいバイオマーカーを特定し、病気の発症に寄与する可能性のある環境的要因と遺伝的要因の両方を特定するための優れたツールとして機能します。
プロジェクト主導のバイオリポジトリは通常、1人の調査員によって運営され、サイズと範囲が小さくなっています。逆に、仮想バイオバンクは、実際の標本保管場所に関係なく、標本と関連情報の電子データベースです。これらの仮想バイオリポジトリは、さまざまなソースからのサンプルと表現型のデータを格納でき、強力な検索エンジンを組み込んで、すべてのコレクションからデータを取得して表示できます。
バイオリポジトリの種類に関係なく、実行する必要のある4つの主要な操作は同じです。
コレクション(Collection): バイオリポジトリは、ドナーからさまざまな生体サンプルを収集します。バイオバンクの場合、組織、血液、尿、皮膚、サンプルとドナーに関するデータが含まれます。収集されたすべての生物標本が正確に識別されることが重要です。理想的には、一意の識別子でタグ付けされたバーコードラベルを使用します。この情報は、関連する検体データとともに、適切な追跡のために検査情報管理システム(LIMS)などのバイオバンキングシステムに入力する必要があります。
処理(Processing): 収集されたサンプルは、保存のために準備する必要があります。保存方法は生体物質の種類によって異なりますが、最も一般的なのは凍結保存です。この段階で、一般的な分析、および必要に応じて診断も通常行われます。多くの場合、標本の目視検査とDNA分析が含まれます。サンプルをテストして、取り扱いおよび準備中に最小限の変動が発生することを確認することもできます。
保管(Storage): 生物標本は、研究者による研究の要請があるまで保管されます。前述のように、使用される最も一般的な方法は凍結保存であり、サンプルは超低温フリーザー(-80℃)と液体窒素容器(-196℃)の超低温環境で保管されます。ただし、特定のサンプルは室温で保管することもできますが、通常は保管前に、ホルマリンなどの固定液で固定します。
配布(Distribution): すべてのバイオリポジトリの最終的な目的は、収集したサンプルを最終的に特定の疾患に関するさまざまな研究を行う研究者に配布することです。バーコードラベルを事前に使用すると、追跡とサンプルの出庫が容易になります。ほとんどのバイオバンクには、貴重なサンプルが適切に評価され、承認された研究チームに送られるようにする何らかの評価プロセスもあります。このステップには、サンプルを最終目的地に輸送することも含まれます。これは、保管中に必要な場合は低温条件で行う必要があります。
価値と将来の重要性
かつては革新的な研究ツールでしたが、バイオリポジトリは科学の世界で不可欠な機関になりました。それらは、高品質で確実に識別された、生物試料に対する高まる需要を満たす重要な役割を果たします2。
疾患中心のバイオバンクは、特に希少疾患を研究するための最良の方法であり、限られたリソースとサンプルを収集して科学界で共有することができます。
人口ベースのバイオバンクは、新しい疾患のバイオマーカーや疾患進行の環境要因を特定する上で、非常に貴重な資産であることが証明されています。実際、医学研究の未来は、バイオリポジトリとバイオバンクの使用と密接に関係しており、高品質で多様な生物標本と患者データの提供をそれらに依存しています。
バイオバンキングが医学研究の実施方法を変えている1つの方法は、イメージングバイオバンクの作成です2。これらのバイオバンクにより、診断画像をハイスループットなコンピュータソフトウェアでカタログ化し、非侵襲的なバイオマーカーとして使用できます。この技術をより信頼性と再現性の高いものにするにはさらなる研究が必要ですが、これらの画像を患者からの生体サンプルとリンクすることにより、バイオバンクの新しいフロンティアとなり得えます。
バイオバンクは、ゲノミクス研究の進歩とともに、個別化医療の開発においても最前線にいます。新しいバイオマーカーを発見し、さまざまな人口グループの表現型および環境データを収集する上での重要性を考えると、バイオバンクは、個々のグループまたは患者に固有の個別化された治療オプションを考案するための優れたリソースなのです。
バイオレポジトリとバイオバンクは、依然として政府からの支援と、患者や健康な市民の参加に大きく依存しています。しかし、過去20年間の彼らの成長は社会への価値を実証しており、適切に運営された持続可能なバイオバンクは、高品質で手頃な価格の生物標本を、今後数年間提供し続けることができ、すべての人に利益をもたらす研究プログラムの計画と実行をサポートしています。
訳注:この記事はLabTAG by GA Internationalの原文を翻訳し、弊社スタッフが一部意訳を加えたものです。
The History and Function of Biobanks
By George Vaniotis Ph.D. -May 26, 2021
- DeSouzaandJohnS.Greenspan.BiobankingPast,PresentandFuture:ResponsibilitiesandBenefits.AIDS.2013January28;27(3):303–312.
- CoppolaL,CianfoneA,GrimaldiAM,IncoronatoM,BevilacquaP,MessinaF,BaseliceS,SoricelliA,MirabelliP,andSalvatoreM.Biobankinginhealthcare:evolutionandfuturedirections.JTranslMed(2019)17:172