二次元バーコード付チューブを理解する

大量に検体を取り扱うバイオバンクにおいては、効率性と確実性の両立が重要な命題です。この記事では、二次元バーコード付チューブに焦点をあて、その利点や運用のポイントについてご紹介します。 

バイアル・チューブ選択の重要性

バイオバンク、特に-20℃~-196℃といった超低温環境で保管されるサンプルは、種子やパラフィンブロックなどとは異なる多くの課題があります。
その中でも一番厄介な問題は、試料を保管する容器の選択です。例えば、他の研究施設や病院、検査機関から送られてくるサンプルを保管・管理する場合、容器の種類やサイズがまちまちになるといった事がよくあります。

もちろんサンプル数が限られている場合は、目視での検索やピッキングでも対応できますが、サンプル数の増加に伴い、収納効率や作業効率は劇的に低下します。多くのバイオバンクでは、この点を運用開始時に整備することができず、サンプルが増加した後にこの問題に直面することになります。

 

二次元バーコード付チューブとは

二次元バーコード付チューブ(2Dコード付チューブ)は、ストレージ用チューブなどとも呼ばれる、検体管理のために生み出されたチューブです。SBS規格と呼ばれるフォーマットのチューブラックに、高密度にチューブが積載できることが特徴です。チューブの容量に応じて、SBS規格ラックのチューブ本数は、96本(0.3~1.4ml程度)、48本(1.5~4ml程度)、24本(5ml~10ml)といったカテゴリに大別されます。弊社取り扱いの二次元バーコード付チューブ一覧は、こちらをご覧ください。

SBS規格:
ANSI(American National Standards Institute:米国国家標準協会)で定められたマイクロプレートのサイズ規格。ANSI SLAS 1-2004 (R2012)に基づき規定される。2D tube variation

メリット

収納効率(密度)の最大化

チューブを収納するラックは、チューブをX×Yの格子状に配置し、最大限のチューブ数を収納できるようにデザインされています。サンプルを収納するフリーザーや液体窒素容器に、規格化された寸法のラックを隙間なくサンプルを収納することができるため、必要台数の削減や、冷却効率の向上に貢献します。

検体情報の取得

それぞれのチューブの底面には、固有の二次元バーコードシンボルがレーザー刻印されており、サンプルの個体識別を可能にしています。このバーコード情報は、各製造メーカー固有のもので、決して重複がしないように配慮されています。バーコードシンボルの多くは、DataMatrix ECC200というフォーマットが主流です。バーコードシンボルについての詳細は こちら の記事を参照してください。


DataMatrix ECC200

チューブラック一括でのデータ取得

Whole rack scanning

二次元バーコード付チューブの最大のアドバンテージは、チューブラックに収納した状態で一括データ取得ができることです。2Dラックスキャナーと呼ばれる装置を使用すれば、わずか数秒ですべての検体IDと位置情報を、チューブラック固有のIDと紐付けて取得することができます。
特に、温度感受性の高い超低温保管サンプルでは、検体識別にかかる時間が品質に影響するリスクを最小限に抑えることができ、非常に効果的です。

2D scan work flow

実験フローの拡張性

SBS規格に準じたチューブラックは、マイクロプレート互換のフォーマットとなっています。従って、8連ピペットやプレートリーダー、PCR装置やディスペンサーなど、様々なマイクロプレート対応機器を使用することができるため、実験の定型化や効率化に繋げることができます。

オートメーション(自動化)の親和性

二次元バーコードチューブは定型化した検体ハンドリングが可能となるため、すべての入出庫操作を自動で行う自動化倉庫で運用することが可能です。

また、自動分注装置などと連携すれば、手作業で行っていた一連の処理を自動化することができます。その多くは非常に高価ではありますが、再現性の向上、人件費の削減、監査証跡の記録など、多くのアドバンテージがあります。

留意点

ここでは、二次元バーコード付チューブを使用するにあたり、留意しておくべきポイントや注意についてご説明します。

外ネジキャップと内ネジキャップ

Internal cap and external cap

一般的なクライオバイアルやチューブと同様に、チューブはネジ式のスクリューキャップが採用されています。キャップには、内ネジ(Internal Cap)と外ネジ(External Cap)の二種類があります。
どちらのキャップに優位性があるかは、しばしば議論となりますが、我々は下記のような理由から、外ネジに軍配が上がると考えています。

  • 同じチューブ高の場合、多くのワーキングボリューム(実効容量)を確保でき、フリーザーや液体窒素への収納効率が向上する
  • Oリングのような異素材シールを用いないため、超低温環境での熱収縮特性に差が生まれない
  • 開栓時にネジ部が暴露しないため、コンタミネーションリスクが低い

しかしながら、一概に決められるものではないため、運用や作業の内容によって適切に選定されるべきです。

※ 化合物や薬品保管向けには、スクリューキャップではなくゴム栓タイプのセプタムキャップが使われる場合もあります。

チューブのピッキング、開栓・閉栓

picking and decapping

二次元バーコード付チューブのメリットは、高密度にサンプルを収納できることです。反面、作業者にとっては扱いずらくサンプルの取り出しやキャップの開栓・閉栓にストレスを感じることがあります。
自動で列単位、あるいはチューブラック単位で一括開栓・閉栓ができる製品もありますが、総じて高額で敷居の高いものとなっています。弊社ではこの問題を解決する、サンプルのピッキングと開栓・閉栓をサポートするツールを自社開発・販売しています。

液体窒素(液相)での保存 

これは二次元バーコード付チューブに限ったことではありませんが、市場に出回るほぼすべてのスクリューキャップ式チューブについて、製造元は液体窒素(液相)での保管を推奨していません。
これは、窒素が常温では700倍もの膨張率があるため、保管中に液体窒素がチューブ内に入り込んでしまうと、保管環境から取り出した後に膨張破裂してしまうリスクがあるからです。もしどうしてもサンプルを液相環境で保管せざるを得ない場合は、このリスクを十分に理解して使用しなくてはいけません。

霜や結露の付着への影響

二次元バーコードを用いて、検体IDを取得できるのは大きなメリットですが、超低温環境で保管されたサンプルでは、常温環境に取り出した際に、結露や霜に悩まされることが問題です。
特に日本は高温多湿で、特に梅雨や夏場には作業環境の湿度が上がり、しばしばこの問題に直面します。

残念ながら、この問題を根本的に解決する方法はありませんが、下記の点を参考にしてください。

  • 識別する直前まで、できるだけ超低温環境を維持する
    温度上昇によるサンプルの品質低下リスクを低減するだけでなく、低温環境では空気中の水分は少なくなる(相対湿度が下がる)ため、重要なポイントです。
  • ブラシで結露や霜を払い取る
    単純ですが効果的な方法です。特に繰り返し入出庫されたチューブラックは、徐々に霜が成長するため、識別の一連の流れでケアしておくと良いでしょう。
  • 無水エタノールを噴霧する
    エタノールの気化熱を利用して霜を除去します。特に細かく噴霧できる霧吹き(アイロン用など)がお薦めです。エタノールを染み込ませたペーパータオル(キムタオルなど)に押し当てる方法も効果的です。

最後に

二次元バーコード付チューブは、バイオバンキングや検体の一次保管・長期保管に優れたソリューションです。しかしながら、特性や制限を理解し適切なワークフローを取り決めるには、相応の労力と投資が伴います。弊社では長年の経験と実績を生かしたご相談とご提案を得意としています。もし運用や選定でお困りごとがあれば、ぜひご連絡ください。

 

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